横浜こども科学館/(財)横浜市青少年科学普及協会


宇宙・天文ニュース(つづき)

★ カンタベリー事件のなぞ

1879年に、英政府刊行物出版局(HMSO)から出た The Historical Works of Gervase of Canterbury (edit. by W. Stubbs) に、月に小惑星が衝突したとしか説明できないような記述のあることをニューヨーク州立大学のジャック・ハートゥング(Jack Hartung)が指摘しました。(Meteoritics, Vol. 11, p. 187, 1976)

当時の修道僧である、ジャーヴァス(Gervase; イギリスの年代記録家。1141年頃〜1210年頃)による1100年〜1199年の記録である「年代記」(The Chronicle)には、1178年6月25日(グレゴリオ暦ユリウス暦では6月18日)の夕方、イギリス、カンタベリーで、5人の修道士たちが異常な光景を目にしたことが次のように書かれています。

1178年6月25日の夕方、カンタベリーで見られたふしぎな光景の想像画
Copyright: Peter Grego (http://members.tripod.co.uk/petergrego/ft105.htm より。大判


ハートゥングは、天体が月に衝突したのかもしれないと考え、この記述に合うクレーターを探し出そうと、ルーナーオービターアポロによる月面写真を調べました。位置や新しいクレーターの特徴から、ジョルダーノ・ブルーノというクレーターがそれではないかと見ています。いまだに、このクレーター内には残留熱が検出されるかもしれませんし、この一帯の岩石には(天体衝突のため)最近になって月の地下から表面に出たことによる特徴(宇宙線照射による影響があまりない、岩石上に微小クレーターが少ないなど)が見つかるかもしれません。今後の月探査の興味深いターゲットのひとつになるでしょう。


月の裏側(地球から見えない側です。表側の写真はこちら。)
月面全体
いずれも、1994年1月26日にアメリカが打ち上げたクレメンタインという月探査機による写真です。矢印の先が、直径22kmの「ジョルダーノ・ブルーノ」というクレーターです。(35.9N, 102.8E 拡大写真

(NASA)
1968年12月打ち上げのアポロ8号が月周回軌道から撮影した「ジョルダーノ・ブルーノ」。


(Image courtesy NASA/University of Arizona Space Imagery Centre)
http://www.lpl.arizona.edu/~withers/より。
1972年4月打ち上げのアポロ16号が月周回軌道から撮影した「ジョルダーノ・ブルーノ」です。



月に衝突した小天体の破片や同等のものが、同じ頃の地球にも衝突した可能性もあり、そのような調査報告があります。(

また、1178年に月面衝突があったとすると、その衝撃のなごりがいまも月全体をわずかに振動させているかもしれない、ということで調査が行われました。
アポロ計画で、月面に置かれた「レーザー反射器」(地上から発射したレーダー光線を、もと来た方向(入射方向)に正確に反射させる装置。往復にかかった時間を正確に計れば、光の速さから、月面までの距離が正確にわかります)による観測から、1178年の衝突のなごりと解釈できる月の振動(周期約3年、振幅約3m)が見つかりました。(資料
この振動の原因については、月の内部構造に原因があるという見方もあります。

月面から吹き上がった塵によって、細い月の光がさえぎられたため、それが「ヘビがのたうつように」みえたのかもしれません。しばらくして月全体が見えるようになったときにも、塵によって暗く見えた可能性があります。


いっぽう、カンタベリー事件は、月面衝突事件ではない、とする見方もあります。

アリゾナ大学月惑星研究所ポール・ウィザズ(Paul Withers)は、もし1178年6月に月に天体が衝突して「ジョルダーノ・ブルーノ」ができたのなら、吹き飛ばされた1000万トンもの物質が地球にまで届き、1週間もの間、1時間に何万個という大流星嵐が地球上で観測されたはずだと、その計算結果を発表しています。ところが、そのような大流星嵐の記録がどこにも見あたらないので、カンタベリー事件は月に天体が衝突したのではなく、別の現象の可能性が高いとウィザズは主張しています。

別の現象とはなんでしょうか? カンタベリー事件の記録が、ロンドンやフランスには皆無なのです。カンタベリーだけ、そのときたまたま晴れていた、という可能性もありますが。
有力な可能性は、月の方向にとてつもなく明るい流星がながれ、しかも観測者のいる方向にほぼ向かってくるようなものだったら流星らしく見えないで、月が火を噴いたように見えた可能性があります。流星の出たあとに、「流星痕」(りゅうせいこん)という煙のようなものが長くのこることもあるので、細い月が流星痕に覆われれば、ちらついたり、暗く見えたかもしれません。

(流星といえば、しし座流星群の流星物質が月に衝突したときの光を観測した、という報告があります)


いつしか、月を見ていると、カンタベリー事件のような光景に出くわすかもしれません。 それが明るい流星のしわざか、それとも天体の衝突か......



資料

月面最新の大クレーター?

A Canterbury Tale

Is There A "New" Lunar Crater?

Lunar Impact?

The Mysterious Case of Crater Giordano Bruno

EVIDENCE OF TUNGUSKA-TYPE IMPACTS OVER THE PACIFIC BASIN AROUND THE YEAR 1178 A.D.

What medieval witnesses saw was not big lunar impact

What Medieval Witnesses Saw Was Not Big Lunar Impact, Grad Student Says

The Night the Moon Split in Two - What really happened one night in June, 1178

Meteor storm evidence against the recent formation of lunar crater Giordano Bruno

A Celestial Collision

Cambridge Conference Correspondence

HEAVEN and HELL - By Carl Sagan - From the book COSMOS

カール・セーガン「コスモス」(上) 1980 朝日新聞社

TUNGUSKA-LIKE EVENT IN NEW ZEALAND 800 YEARS AGO?

THE TECHTONIC INTERPRETATION OF THE 1908 TUNGUSKA EVENT

Meteor explosions

日本スペースガード協会ニュース


関連ページ


月の情報 ☆ ☆ 小惑星情報のページ



★ 木星の手前を通過した人工衛星

木星の手前を通過する人工衛星
AVI動画 1.82MB)


木星の手前をコスモス1844と見られる人工衛星が通過するところを、オランダの観測者が偶然にビデオ撮影していました。木星の衛星(左上からガニメデ、カリスト、エウロパ、イオ)も写っています。時刻は、2000年11月4日15時06分50秒(日本時間。世界時06時06分50秒)頃です。

コスモス1844は、ロシア(旧ソ連時代)が1987年5月13日にバイコヌール宇宙基地から打ち上げた電子偵察衛星(地上からの電波通信などを傍受)と見られているものです。
ビデオ撮影時には、約880kmの高さを飛行しており、観測地点からの直線距離は千数百kmでした。

太陽面や月面を観測されているかたも、ときどき人工衛星の通過を目撃されているようです。(関連情報


(画像はhttp://home.planet.nl/~amie0000/jupiter2.aviより。関連情報はこちら


★ 人工衛星情報



★ 小惑星かロケットか?

2000年9月29日にハワイ、マウナケア山頂ハワイ大学の口径2.2m望遠鏡で、小惑星 2000 SG344発見されました。
その軌道を過去にさかのぼって調べたところ、小惑星 2000 SG344 は、1999年5月15日にニューメキシコ州にある観測所マサチューセッツ工科大学リンカン研究所による地球接近小惑星研究計画「リニア」(Lincoln Near Earth Asteroid Research)の観測施設)の口径1m望遠鏡でも観測されていたことがわかりました。

この天体は、太陽のまわりを約354日で、地球の軌道によく似た軌道でまわる天体であることがわかりました。


小惑星 2000 SG344 と地球の軌道
青い軌道が地球の軌道で、黒い軌道が小惑星 2000 SG344の軌道。
小惑星の軌道に示した1月〜9月の位置は2000年の位置。
( http://science.nasa.gov/headlines/y2000/ast06nov_2.htmより)


小惑星 2000 SG344の立体軌道図


月までの20倍ほどの距離を通過していた発見の頃は、観測も少なく、それほど正確な軌道が求められなかったのですが、2030年9月21日の接近時に地球と衝突する可能性があり、その確率が1/500と、国際天文学連合から発表がありました。
地球に接近する小惑星は、太陽光の3〜20%ほどを反射するものが多いのですが、そのことと観測された明るさから、大きさの見積もりを計算することができます。小惑星 2000 SG344の直径は、30〜70mくらいと計算されます。

小さめに見て、30mとしても鉄のかたまりのようなら、地上まで落下し、付近一帯に相当な被害がでる可能性があります。もし、もろい石のような物質なら、30mの大きさのものは大気圏でばらばらになってしまうでしょう。(そんな事件がありました

その後も、2000年11月3日に、過去の観測記録が見つかり、これらのデータを含めて計算し直したところ、2030年には9月23日に、月までの距離の11倍にしか接近しないことが判明しました。ひとあんしん、というところですが、その後の接近についてはどうでしょうか。
例えば、2071年9月16日には(現在の観測データで計算すると)約1/1000の確率で地球に衝突するということになるそうです。こうした値も、今後観測データが蓄積されるにつれ、一層正確になるでしょう。

ところで、小惑星 2000 SG344の軌道があまりに地球軌道そっくりなので、30年ほど前のアポロ計画で、アポロ宇宙船を月への軌道に乗せた、「サターン5型ロケットの3段目」(S-IVB 直径6.6m、長さ17.8mの円筒形)が太陽をまわる軌道に乗ったものではないか、という見方もでてきています。


アポロ宇宙船を月に向かわせた「サターン5型ロケットの3段目」

ケネディ宇宙センターにて アポロ8号宇宙船から分離後 アポロ8号宇宙船から分離後
(Photo Credit: NASA)


アポロ13号〜17号の3段目はどれも月に衝突していますが、アポロ8号〜12号の3段目は、地球あるいは太陽を周回する軌道に乗ったようです。 小惑星 2000 SG344軌道を過去にたどりますと、1971年に地球に接近していたことがわかります。その頃打ち上げられたのはアポロ14号と15号ですが、どちらの3段目も月面に衝突しています。

アポロ12号の可能性も指摘されています。12号の3段目は地球をまわる軌道に乗りましたが、月の重力によって太陽を周回する軌道に移った可能性があるのです。この場合、12号の打ち上げ時期(1969年11月)は重要ではなく、月の重力が3段目を太陽周回軌道に移した時期が1971年なのかどうかですが... 3段目の正確な軌道データもないようで調査が難しそうです。

もし、小惑星 2000 SG344の正体が使用済みロケットならば、深刻な地上への被害は考えなくてもよさそうです。(ロケット落下の目撃例

これまでにも、地球の軌道によく似た小惑星としては、
1991年11月6日に、アリゾナ大学月惑星研究所の、地球に接近する天体を調査するプログラム「スペースウォッチ計画」の口径0.9m望遠鏡発見された 1991 VG があります。(観測データ

小惑星 1991 VGの立体軌道図


10mくらいの大きさと見られる 1991 VGは、月面に天体が衝突した際、その衝撃で吹き飛ばされた岩石破片ではないか、という説も出されました。今回の 2000 SG344 にもその可能性が考えられます。 (詳しくは An asteroid in an Earth-like orbit をお読みください)


(資料: IAU Technical Review Team Assessment on Asteroid 2000 SG344; New Results for Object 2000 SG344; Space object found that could hit Earth in 2030; Much Ado about 2000 SG344; MPEC 2000-U19; MPEC 2000-U20; MPEC 2000-U24


★ 小惑星情報


(アポロ関連ページ: アポロ計画の写真; アポロ着陸地点; アポロ11号の記録; Apollo 30th Anniversary; Apollo Lunar Surface Journal; Apollo-11 Page; Project Apollo; Apollo 11; Project Apollo Archive; 月の情報源



★ 土星の新衛星

発見された衛星のひとつ S/2000 S 2
ヨーロッパ南天天文台で発見された土星の新衛星 S/2000 S 2。時間をおいて撮影された3コマの画像で、位置を変えているのが新衛星。 (Credit: European Southern Observatory)


2000年8月7日、南米、チリにある、ヨーロッパ南天天文台口径2.2m望遠鏡によって撮影された画像から、土星の新衛星2つが発見されました。

さらに同年9月23日、24日に、ハワイ、 マウナケア山頂にあるカナダ-フランス-ハワイ望遠鏡(口径3.58m)による画像から、別の新衛星2つが発見されました。

これら4つの新衛星をいれて、土星には合計22個の衛星がみつかったことになります。惑星で最も衛星数の多い天体となりました。(2番目が天王星で21個土星に、さらに衛星発見!

太陽の光が土星観測のさまたげになる2001年3月頃まで、新衛星の位置観測が続けられ、正確な軌道が求められるはずです。

4つの新衛星は、その明るさから大きさを見積もると、だいたい10〜50km程度とみられています。

正確な軌道が求められていない現在、仮の符号で新衛星をつぎのように呼んでいます。 発見順に、S/2000 S 1, S/2000 S 2, S/2000 S 3, S/2000 S 4。初めの S がSatellite(衛星)の意味で、S 1 の S はSaturn(土星)の意味です。2000年に発見された土星の衛星で1番目のもの、2番目の者、.... ということです。


(資料: McMaster UniversityESOObservatoire de la Cote d'AzurCornell UniversityIAUC 7512IAUC 7513



 最近発見された土星の衛星情報その軌道データ
 最近発見された土星の軌道データ


 リングの見え方が変化している土星の写真集

 最近の土星写真集 

☆ 土星探査機のニュース

★ 土星の衛星の位置を計算します

★ 土星の今夜の出没時や星空での位置を知りたい人のために→<オンライン天体暦>、や<お星さまとコンピュータ>。あるいは Windows ユーザーならこちらのプログラムで計算して調べることもできます。
★ 土星についてもっと詳しく知りたい人のために→<ザ・ナイン・プラネッツ - 土星のページ>




★ 地球接近天体に関する特別調査報告書


インターネット上に公開された「危険性をはらむ地球接近天体についての特別調査報告書」
http://www.nearearthobjects.co.uk/より)


2000年1月4日、イギリスの科学担当閣僚であるセインズバリー卿は、地球に接近する小惑星や彗星の脅威に関する調査のため、特別調査チームを編成すると発表しました。(3名から成る特別調査チームのメンバー

できあがった報告書は同年8月16日にはイギリス政府に提出され、9月18日にはインターネット上にも公開されました。
この報告書には14項目の勧告があります。その内容はだいたい次のようなものです。

勧告1: 現在観測されているよりも小さなものまで検出するため、南半球に口径3m級の専用望遠鏡を設けるため、パートナーをさがすこと。
勧告2:別の観測目的で得られた広視野観測データについても、地球接近天体捜索に使えるよう調整を行うこと。
勧告3:ヨーロッパ宇宙機関の将来計画のひとつ、ガイア計画などでも、地球接近天体の捜索を考慮するよう働きかける。
勧告4:イギリスもパートナーとして参加している、ラパルマ大西洋カナリア諸島の島)の口径1mのカプタイン望遠鏡を、軌道決定の精度向上のため、地球接近天体の追跡観測専用にすること。
勧告5: イギリスがパートナーとして参加している望遠鏡で、地球接近天体の分光観測の時間をすこしでも確保すること。
勧告6: 関係各国とともに、小型探査機を用いて、種類の異なる地球接近天体の探査し、それぞれの特性を明らかにすること。
勧告7:各国政府や国際天文学連合などとともに、小惑星センターの国際的な基盤整備 (危険性が判明した場合における行政機関との連携など)のため、予算・管理面の検討を 行う。
勧告8:衝突の結果について、さまざまな分野から行われている国内・ヨーロッパでの研究を援助すること。
勧告9:衝突による被害を軽減するような方策についても各国政府とともに研究に着手すること。
勧告10:地球接近天体について公開討議できる場を、各国政府や国際天文学連合などとともに早急に設けること。
勧告11:ヨーロッパがいかにして最良の対処ができるか、2001年のヨーロッパ宇宙機関閣僚会議において、方策を見出すこと。
勧告12:政府は、地球接近天体に関する調整や政策実行に指導的な役割をはたす行政機関をひとつ指定すること。
勧告13:地球接近天体のための国内センターをつくり、政府等関係機関、一般やメディアへの勧告・助言を提供し、イギリスの国際活動を促進する。
勧告14:地球接近天体センターの最も重要な機能のひとつとして、偏らない情報を 明確でわかりやすく、学術コミュニティ、議会、メディア、一般等に伝える、ということがあげられる。インターネットをフルに活用すること。まず、センターの機能、業務範囲、予算についての調査研究が必要。


今回の報告書に対し、イギリス政府がなにを行うかが注目されます。


(資料源: http://www.nearearthobjects.co.uk/


★ 小惑星情報彗星情報



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